おコメ旅 #1            気鋭の料理長が、ここで仕事をする『理由』

おコメ旅 #1            気鋭の料理長が、ここで仕事をする『理由』



記念すべき第1回は、
ホテルエピナール那須(以下、エピナール)』の
和匠ダイニング 菜す乃(以下、菜す乃)』
料理長・荒井皇文さんのもとへ。



私たちの育てた『自然米』やポン菓子の『イナポン』を料理に使ってくださっています。

荒井料理長の「仕事観」「チームづくり」
そして、次なる挑戦とは ―

「これまで」と「これから」の旅路に、
一緒に連れ出してもらいましょう!


 生産者発!おコメの出会いを辿る旅 お楽しみください!

 


◎私たちが伺いました!◎

  

パフじろう
稲作本店 創業者 / ライスクリエイター

パフまりこ
稲作本店 創業者 / ライス魔法使い

 

 働く場所を模索した20代

 

パフじろう  
荒井さん、いまおいくつになりましたか? 

荒井
37歳です。 

パフまりこ
若い!     

パフじろう     
超イケメンです(笑)。     

荒井
とんでもないです(笑)。

荒井 皇文さん: 1984年栃木県生まれ。「ホテルエピナール那須」和食部門にて修行をスタート。 その後、宇都宮市内のフランス料理店で経験を積む。 2021年に同ホテルに復職し、2016年から「和匠ダイニング 菜す乃」の料理長を務める。

 

パフじろう
ちなみに料理の世界に入ったのは……?  

荒井
高校を卒業した18歳からですね。

もう20年前になります。
もともとは、ここ『エピナール』の
和食部門からキャリアがスタートしています。

パフまりこ
和食を選んだのは理由があったんですか?  

荒井
正直、洋食が人気過ぎて入れなかったという……(笑)。  

パフじろうまりこ
(笑)。  

荒井
当時は洋食のほうが華やかに見えて。

バイキングと、
『菜す乃』の前身の日本料理『那珂川』、
その両部門がひとつの厨房を使っていて、
約3年間つとめておりました。  

その後、宇都宮に移って創作フレンチのお店で7年。  

パフまりこ
フレンチやられていたとは!知らなかったです。  

荒井
24歳からは料理長も務めていましたね。
そして、28歳のときにまた『エピナール』に戻りました。
5年前に『菜す乃』の料理長になり、今に至るという感じです。

 

※2年前、荒井料理長と出会ったばかりのころ

 

パフじろう
フレンチで「洋」に行き、再び「和」に戻ってきたと。

荒井
はい。
実は、『エピナール』には 1年間という契約で戻ってきたんですね。
 
総料理長に
「また1年だけお世話になりたいです」とお願いして。  

パフじろう
ええ。  

荒井
というのも、フレンチのお店を辞めるとき、
別のところからお話を頂いて、
そこが日本料理の技術を必要としていたんです。
7年のブランクがあったので、日本料理をまた勉強し直そうと。 

パフじろう
それで1年だけのつもりが……。  

荒井
気づけばもう10年経ちました(笑)。
1年の予定だったので、自宅はいまも宇都宮にあります。  

パフじろう
残ると決めたのはどういうお気持ちだったんですか?  

荒井
そうですね……単純に居心地がよかったんですよね。

『エピナール』のまわりは自然に囲まれていて、
宇都宮とはまた違う風景で。
自分の地元ということもあり、
働くという上でも「合っていた」んだろうなと。  

 

 いま、ここで仕事をする「理由」は何か?

 

荒井
5年前に『菜す乃』の料理長になったことは、一つの転機でしたね。  

パフじろう
転機。

荒井
18歳で働いていたころは
基礎を学びながら
単純に「美味しい料理をつくりたい」
ということばかりに意識が向いていて……。  

パフじろう
ええ。  

荒井
食材の仕入れも言われたまま業務的に行っている部分があって。  

でもトップになって、「地産地消」ということを意識しはじめて。
野菜一つとっても自分で探して、
作り方や農薬や有機についても
「もっと知りたい」っていう想いがどんどん出てきたんですよね。  
 
それまでももちろん大事にしていたつもりでしたが、
本当に食材と向き合うようになったのは、
料理長になってからですかね。  

パフまりこ
その変化は地元の農家さんと
触れ合ったりしたことで起きたんですか?  

荒井
『エピナール』は規模的に
近隣の農家さんだけでは足りないので、
八百屋さんからも食材を仕入れますが、
でもなんだろうな……
農家さんと触れ合っている時間が
なにより、なんですよね。  

性格やタイプもあると思うんですけど、
とにかく那須にいるんだったら、
まず栃木のことを知ろうと。
何が栃木で作られているかを知ろうと思ったんです。 

それでいて那須で日本料理をやるなら「理由」ですよね。
それが欲しかったんです。  

パフじろう 
那須で日本料理をする「理由」。  


荒井

東京と同じような料理をしてもしょうがないわけです。
やっぱり地方の良さや強みをこの地から発信していかないと。 
 
パフまりこ
そうですよね。
東京だったら「地産地消」って言えないから。  

荒井
そうそう。地方から食材を仕入れているので、
またその場所でやる「理由」が
変わってくると思うんですよ。  

パフじろう
東京なら東京の表現の仕方があるし、
那須なら那須の表現の仕方がある。  

荒井

そうですね。
いま料理業界でも「地方」というのが
1つキーワードになっていて。  

パフじろう
「地方」というのは「その土地らしさ」という部分ですか。  

荒井
そうです。料理を通していかにその土地を表現できているか。
地産地消に似た言葉で「テロワール」って言いますよね。  

パフじろう
はい。  

荒井
その土地に根差した料理ですね。  

例えば、高級食材って結局はルートやパイプが限定的になっちゃうんです。
豊洲、とか。
もちろん、そういうお店ばかりではないですけど。  

せっかくその土地にいるんだったら、
全面的にそれを押し出さないでどうするのって、
思うようになったんですね。

 

 厨房の外で見つけた「おいしさ」

パフじろう
さきほど、農家と触れ合う時間がなによりとおっしゃっていましたが、
直接農家に会うスタイルに変わったのは料理長になってからですか?  

荒井
そのころからですね。
宇都宮近隣でも自分で探しました。
今まで取引のなかった農家さんに直接出向いて
お話を聞くというのを始めた記憶があります。   

パフじろう
農家に会って話を聞いて食材が実際に入ってくるのと、
八百屋さんから仕入れるのでは何が違いますか?   

荒井
いや、意識がもう全然変わってきます。  

パフじろう
意識。

荒井
そうですね……

出来栄えや味というよりも「姿勢」ですよね。
作っている人も、土地も、知ることができるので、
その想いを自分も汲み取れるというか。 

 

 

荒井
「使ってやっている」ではないんです、そこはもうほんとに。
せっかく大事に作ってきた食材を無駄にしてはいけないし、
そのまま食べても美味しいはずのものを
どうやったらもっと美味しくできるか、
自分がそれを邪魔してはいけないという気持ちですね。  

だから自分の料理を通して、
その作り手の想いもちゃんと乗っけて、
お客さんにより広く知っていただきたい。
そういう想いが料理長になってから芽生え始めたんですかね。  

パフじろう
荒井さんは、2年前に地元のマルシェで
イナポン』を作っていた時に知り合って、
その後すぐ僕らの農園にも来てくださいましたよね。  

パフまりこ
マルシェでは黒ずくめのイケメンが
『イナポン』くださいって近づいてきて(笑)。

 

 

荒井
ははは(笑)。
あのとき10店舗くらい出店しているなかで、
ある一角から「バーンッ!」という爆発音とともに
ポン菓子をつくっているお二人を見つけて。   

とにかくキラキラして見えたんですよね、お二人が。 
 
パフまりこ
キラキラしてました?
ただただ必死でしたね(笑)。

荒井
ちょうどパフしたお米を食材として
求めていたのもありますが、
こんなキラキラしている人たちが
悪いものを作っているはずないって思って。  

 

※『イナポン』(お米のポン菓子)をアイスクリームと一緒に使ってくださったりしています!


パフじろう

ありがとうございます(笑)。   

その後、農園に来てくださって田んぼをご案内したんですが、
荒井さんはわざわざ長靴を持参してくださって。
「すごいな」って思ったのを覚えています。   

荒井
いえいえ。

やっぱり極力農家さんのもとへ足を運びたいというか……
そうしないとやっぱり伝わらないんです。
召し上がっていただいて、
「おいしかったね」でもちろん嬉しいですけど、
そこまでのストーリーってめちゃくちゃ大事じゃないですか。  

パフじろう
はい。  

荒井
なので、 それをいかにわかりやすくお客様に伝えられるか
というところに重きを置いていますね。
すべてのお客さんに自分から伝えられれば、 もちろんいいんですけど……  
 
パフじろう
やっぱり僕らとしても、
裏側が伝えられないもどかしさというか、
汗かいているところをどう知ってもらえるだろうか、
というのがあったので見てもらえるのはすごく嬉しくて。  

パフまりこ
ほんとそうだね。 

 

▮ 「ここのお米で勝負したい」


荒井

その日は自然米を作っている田んぼを案内してくださいました。  

パフじろう
はい。
あそこって「見たい」って言ってくださった方だけ
お連れする場所なんですよ。  

荒井
へぇ~そうなんですね。  

パフじろう
山奥にあってなかなか見ていただく機会がない場所で。  

荒井
その田んぼの風景がもう素敵すぎて……
完全に魅せられたんです。 

こういうとあれですけど、
そういう場所って「だいたいこういう作りになっているかな」と
予想できてしまう部分もあるんですが、
それを超えてきたので、完全に(笑)。  

パフじろう
いやー、嬉しいです……!  

荒井
キラキラしていたんですよ、そこも。
天気がよくて、
ちょろちょろと小川が流れていて、
鳥のさえずりが聞こえて。

「とってもいい場所だな」って。


パフじろう
最初は『イナポン』のお取引からスタートして、
そのあと自然米のお取引になっていったんですよね。  

荒井
ええ。
使わせていただかない理由がないですよね、逆に。
ここのお米で勝負したいっていう気持ちが、そのときすぐに芽生えて。  

パフじろう
ほんとありがたいです。  

荒井
先ほどの話ではないですが、
自然米は地力だけで育てていて
土地の「味」そのものですよね。
「その土地をいただいています」っていう。  

パフじろう
うんうん。  

荒井
何も言わなくていいじゃんそれ、って。  

パフじろう
そうですね、まさに。

苗自身が自発的に育ってくれて。
草取りは自分たちが手助けはするけど、
「この肥料つかったらいっぱいとれる」とか
「これのほうが美味しくできる」とかっていうのに
頼らずやっていますね。  

荒井
ほんと「手助け」です。
食材を料理するのも「手助け」のようで。  

パフじろう
なるほど。  

荒井
なので姿勢は同じというか、
似たような部分があるかもしれないです。 

※以前お邪魔した時に頂いた『稲作本店』の自然米ととちぎ和牛の土鍋御飯!絶品でした!


 次の世代に伝えていること


パフまりこ

厨房のメンバーは何名くらいいらっしゃるんですか?  

荒井
16人くらいです。
そのうち約半数が、高校や専門学校を卒業したばかりの20歳前後の子です。 

パフまりこ
それは大変ですね!  

荒井
大変です(笑)。

 

パフじろう
荒井さんはそのメンバーの皆さんに 日ごろどういったことを伝えているんですか?  

荒井
やっぱり「理由」ですよね。
「理由」しかないです。  

パフじろう
それは、先ほどおっしゃっていた
那須で日本料理をやっている「理由」?  

荒井
そうです。
それを背中で教えるというか……   

パフじろう
うんうん。  

荒井
変な話、技術的な部分は下の子に教えないんですよ。
毎日やっていると必然的にできてくるので。

それよりも口酸っぱく言うのは「姿勢」の部分ですね。
ものを大事にしろよとか。
直接納品に来てくださる農家さんといろいろ話してみたらとか。 

「やらされ仕事」ではなく、
やっぱり自発的なものが欲しいですよね。  

パフじろう
そうですよね。  

 

荒井
厨房のスタッフに関してもまだまだ至らないところがあるので。
別々の場所から仕入れた見た目は同じキュウリでも
「同じキュウリじゃん」と言っていたら
「いやいや、ストーリーが全然違うじゃない」って。 

だから極力、献立に関しても「○○産」「○○農園」と書いています。
そこは口頭でお伝えすればいいのかもしれませんが、
できるだけ分かりやすくしたくて。  

パフじろう
ストーリーを読み取っていく力が育っていくといいなぁと。  

荒井
そうですね。  
誇らしくいてほしいんです。
「自分は那須で日本料理している」って。
「なんで那須でやっているの?」って言われたときに、
ちゃんと胸張って自信もって答えられるように。  

パフじろう
うんうん。  

荒井
答えられるようにするためには、
普段からそういう意識でいながら、
作り手の方々の想いを背負って、
それを伝える役割なんだと自覚を持ってやってほしい。

そうするのと、そうでないのと、
きっと全く変わってくるので。  

パフじろう
技術的にすごい能力を持っていても、
ストーリーを読み解く力がない人はやっぱり分かりますか?  

荒井
だいたい人柄でわかりますね(笑)。  

パフじろう
そうですかぁ。  

荒井
生産者の方がいてこその我々の職業なので……
距離感は常に近くありたいって思いますね。  


パフじろう

僕らも「たべる」と「つくる」の距離感が
すごく遠いなって思っちゃっているんですよ。  

荒井
ええ。  

パフじろう
やっぱり生産の現場から距離が遠くなればなるほど、
パックされた商品でしかないという、
その辛さのようなものが常にあって。  

荒井さんみたいに地元で伝わる形に
編集してくださる方っていうのは、
私たちとしてもすっごくありがたいです。

※ある日のディナーの献立。○○産、○○牧場など、メニューごとに書かれています。 地元の食材を、想いをもって使ってくださっているのが伝わってきます。

 

▮ 今日も、終わりなき旅


パフじろう

最後に、荒井さんの「これから」をお聞きしたいです。   

荒井
「これから」…… 。

 これはあんまり話したことないんですけど……。  

パフまりこ
そんなの聞いちゃっていいんですか!(笑)  

荒井
ははは(笑)。
大げさなあれじゃないんで。  

単純に、スタッフが働きやすい環境をつくりたいですね。
私を含めてみんなが自分の意見を持っていて、
そういう人たちがつくった料理を通して、
お客様に「素晴らしいところだね、また来ようね」って思ってもらえて。
それがどういう形か分かりませんが、
評価のようなものに繋がって、
それによりまたスタッフが自分の職場を誇れるというか……
自分自身を誇れるような。   
そういう場所にしていけたら、と。  

パフじろう
なるほど……!  

荒井
もうなんか……ほんと羽ばたいてほしいんですよ(笑)。   

ホテル的には人手不足という面がありますけど、
そればっかりじゃないんで、やっぱり。
まぁ、学べるところはちゃんとここで学んで、
「理由」を日ごろから考えながら感じながら、
自分は将来どうしていきたいのかを
自主的に考えていってほしいですね。 

……だから、真剣勝負でほぼ毎日怒っています(笑)。

パフまりこ
そうなんですか!  

パフじろう
怒るっていうのは「姿勢」の部分ですか?   

荒井
単純に仕事が雑なときや、
フードロスが垣間見えたときとか……
「これどうすんの?」って。
「これ捨てんの?」って。   

パフじろう
なるほどぉ。素晴らしいです。  

荒井
でも自分も全然達していない人間なので。
まだまだ修行の身ですよ。  
 
パフじろう
終わりなき、ですか。  

荒井
終わりなき、ですね。
正解がないんですよ、料理って。
だから好奇心がなくなってしまうと、何もなくなっちゃうんですよ。  

パフじろう 
同じことを繰り返すだけになってしまうと。  

荒井
そうそう。だったら別に工場でいいじゃんって。  

自分たちの仕事はクリエイティブな仕事で、生み出す仕事ですからね。
いかにお客様に伝えて、クオリティ含めて喜んでいただけるか。  

大変なことも多いです……(笑)、
けど、だからこそやりがいもあります。

 

※※※  

インタビュー後、荒井さんは厨房の中をご案内くださいました。  

そこには、ディナーのコースでお出しする予定のお米が!
例えばこちらは、えだまめとシンプルな出汁で炊いているそうです。

荒井さんが わざわざ見に来てくださった田んぼから収穫されたお米が、
厨房でその出来上がりを待っている姿を、
初めて見ることができました。

「おコメ旅」。
シリーズ#1『和匠ダイニング 菜す乃』編。

そこには、直接農園に足を運び、農家のことを知り、想いをつないでそれを最高の形でお客様に届けてくれる素敵な料理長がいました。

荒井さん、ありがとうございました!!

取材日:2021.07.09
 
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